手根管症候群 臨床的基本事項
手のしびれと手の使いにくさを訴える原因疾患として、経験的に頻度が多い疾患の一つが手根管症候群(carpal tunnel syndrome: CTS)です。
CTSは、正中神経が手根管部で絞扼されることで障害される、絞扼性の単一末梢神経障害です。
中年以降の女性/妊娠/肥満/関節リウマチ/腎不全(血液透析)/甲状腺機能低下症/糖尿病/手を酷使する職業・趣味が発症リスクを高めます。
また、アミロイドーシスはCTSが先行する例もあり、特に両側CTSでは検査を行います。
診断に寄与するキーフレーズは「夜間から早朝にかけて増悪」「症状を改善させるために起床後に手を振る(Flick徴候)」です。
診断は問診と診察によって可能です。診察では正中神経支配に合致する感覚障害と運動障害を支持する所見と、手根管での絞扼を支持する所見(Tinel徴候とPhalen試験陽性)を確認します。
診断基準としてCTS-6があります。合計12点以上でCTSと診断可能です。
① 正中神経領域に限局した感覚障害 3.5点
② 夜間から早朝に増悪する症状 4点
③ 母指球筋(短母指外転筋・短母指屈筋・母指対立筋)の筋力低下または萎縮 5点
④ Phalen試験陽性 5点
⑤ 正中神経支配領域の指の二点識別覚が5mm以上 4.5点
⑥ Tinel徴候陽性 4点
CTSと診断する際には上記の所見を確認します。
診断の支持的な検査として、神経伝導検査が有用ですが、診断自体は上記の症状と症候に基づきます。
重要な鑑別疾患は母指・示指・中指の感覚障害をきたすC6またはC7頚椎症性神経根症です。
鑑別点は短母指外転筋の筋力低下・筋萎縮の有無です。短母指外転筋は正中神経/Th1神経根支配であり、C6またはC7神経根症では障害されませんが、CTSでは障害されます。
治療は保存的治療(鎮痛薬主体の薬物治療・装具療法での手関節安静・ステロイドの手根管内注射)と手術治療が行われます。
特に薬物治療が無効例と、運動症状合併例では整形外科に紹介を行います。
参考文献:
- 神経内科 Clinical Questions & Pearls 末梢神経障害 手根管症候群はどのようにして診断しますか?内科的治療は? 国分則人 中外医学社
- Pryse-Phillips WE. Validation of a diagnostic sign in carpal tunnel syndrome. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1984 Aug;47(8):870-2. PMID: 6470728