手根管症候群 神経伝導検査
神経伝導検査だけで手根管症候群(carpal tunnel syndrome: CTS)と診断することは慎むべきです。
しかしCTSにおける神経伝導検査は、症候がある症例で、診断を補助する重要な検査です。
手根管部の脱髄と軸索障害を反映する所見を示すことが重要です。
正中神経の手首刺激でCMAPとSNAPの遠位潜時が延長している場合(3.7 ms以上)の場合はCTSに矛盾しない支持的所見です。
Blandの電気生理学的重症度分類(7段階)
Stage 0 (normal) 異常なし
Stage 1 (very mild) 下記の特別な検査でのみ異常
Stage 2 (mild) SNAPの遠位潜時のみ延長、CMAPは正常
Stage 3 (moderate) CMAP遠位潜時の延長(6.5 m/s 以下)、SNAPの振幅が保たれる
Stage 4 (severe) CMAP遠位潜時の延長(6.5 m/s 以下)、SNAPの振幅が消失
Stage 5 (very severe) CMAP遠位潜時の高度延長(6.5 m/sを越える)
Stage 6 (extremely severe) CMAPの高度振幅低下(0.2 mV未満)
この基準のみで治療方針は決まりませんが、神経障害の程度として参考になります。
下記の検査がより高い感度と特異度を有します。
SNAPの記録時に手掌を追加する:示指-手掌、手首-肘は正常だが、手掌-手首は伝導遅延(伝導速度の低下)が生じます。
環指試験 ring finger test:記録電極を環指に置き、電極から等距離で正中神経と尺骨神経を刺激してSNAPを記録します。潜時の差が0.5 ms以上あれば陽性です。
第2虫様筋-背側骨間筋試験:記録電極を示指と中指の間の手掌におき、正中神経刺激で第2虫様筋、尺骨神経刺激で背側骨間筋を刺激し、CMAPを記録します。潜時の差が0.6 ms以上あれば陽性です。
補足:針筋電図検査は神経根障害との鑑別に用いることができますがCTSの診断のためは行いません。
参考文献
- 神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のために 第2版 木村淳・幸原伸夫 医学書院
- 標準的神経治療:手根管症候群 日本神経治療学会
- Bland JD. A neurophysiological grading scale for carpal tunnel syndrome. Muscle Nerve. 2000 Aug;23(8):1280-3. PMID: 10918269.